横山秀夫 動機 







「陰の季節」に次ぐ第2弾です。
横山さんらしく短編集です。
本当に短編が書くのが上手い人なので、短編で横山ワールドを堪能して下さい。




動機


本のタイトルにもなっている話です。
ある日、J県警U署で警察手帳30冊が紛失してしまいました。

警察にとっては大事件です。
しかも内部犯のようなので、犯人は警察官ということになります。

誰が何の目的で30冊も警察手帳を盗んだのかが話の中心です。


貝瀬正幸警視が話の中心で、この貝瀬警視が警察手帳の一括保管を提案していました。
警察手帳を一括保管すると、紛失防止ができるということで取り入れられた制度だったのですが
いきなり
30冊も警察手帳を盗まれてしまいました。

これは大失態です。
貝瀬は屈辱を味わいます。
そして貝瀬の犯人捜しが始まります。


犯人はやはり内部にいました。
犯人は警察官だったのですが、その動機が大事です。


警察手帳紛失事件の裏には予想外の動機がありました。

貝瀬に恨みがあるわけではなかったのです。


また、この話でも、警察内の対立が描かれています。
警察という組織は結構複雑であることが分かります。




逆転の夏


個人的には本のタイトルがこれになっても良かったと思います。

また非常に気に入っている話です。


山本洋司という40代の男性が主人公です。
山本はある葬儀関係の会社で働いています。

山本には実は裏がありました。
13年前に、殺人を犯し、刑務所に入っていたのです。

山本が殺人犯であることは、会社の野崎社長と、保護司の及川くらいしか知りません。
この山本の過去が大きく関係してきます。


ある日、山本のところに電話があります。
匿名ですが、男性の声で「殺して欲しい人間がいるのです」と言ってきました。

いきなりの殺人依頼です。

もちろん山本は相手にしません。
しかし、その男性から電話が引き続きかかって来ます。


殺人依頼をする電話です。
山本は相手にしませんが、相手から、山本の口座にお金が振り込まれてきます。
「カサイショウジ」という名前で10万円振り込んできました。


しばらくして、今度は30万円の振り込みがありました。
さらに50万円の振り込みがありました。


山本は殺人依頼を受けませんが、しかし徐々に考えが変わっていきます。
山本には妻と息子がいたのですが、殺人を犯したことから、離婚しており、子供にも会っていません。

山本は子供の顔を知りません。
生まれてから一度も会っていないのです。


山本はしっかりと元妻の元へ送金しており、カサイからもらったお金も元妻へ送金していました。
山本は、元妻と復縁したいと思っています。

山本のこういう考えも影響してきます。


また、山本と会社の野崎社長との関係も大事です。
野崎は山本の過去を知っています。

この2人の関係がぎくしゃくし始め、野崎は山本が殺人犯であることを社員にばらします。
それから山本は会社に居づらくなり、会社を辞めることになりました。


そして山本はいつの間にか、電話の「カサイ」の話に耳を傾けるようになっています。
お金に惹かれたこともありますが、どんどんとカサイの計画に乗るようになってきました。

そして殺人を受けてもらえれば、5000万円あげる、ということを言われます。
仕事も家族も無くしている山本には魅力的な金額です。


山本はカサイの計画に乗ります。


しかし殺人ではなく、人を殺さずに上手くごまかすことを思いつきます。
いずれにしても山本は計画を果たす気です。

頭の中は、計画を実行することばかりです。

山本はこの後待ち受けている事実を知らずに、計画を実行して行きます。


「逆転の夏」というタイトルは、この話の最後の方で分かります。
立場が逆転するのです。


山本が計画を実行した時に、立場が逆転します。
そこで山本は電話の相手が誰なのか知ります。


山本はやはり殺人犯でした。
殺人犯なので、思うようには上手く生きられないのです。


最後の最後で立場がどう逆転するのか、読んで確かめて下さい。

この話ももちろん短編ですが、短編とは思えないほど、しっかりと話がまとまっています。
横山さんの短編を書く力の凄さが本当に分かる話です。




ネタ元


元新聞記者の横山さんらしい内容です。

新聞記者が主役の話です。

水島真知子という女性新聞記者が主役です。
真知子は県民新聞という地方の小さな新聞社で働く記者です。

実は県民新聞は、真知子が以前書いた記事の影響で急激の読者を減らしています。
全国紙大手の東洋新聞が部数を伸ばしていることもあり、県民新聞は苦戦を強いられています。


ある日、主婦が殺されます。
真知子はこの事件を追いかけます。
大きな記事を書くため、取材に走り回ります。



しかしなかなか記事は書けません。


そんな中、真知子に東洋新聞社から誘いがかかります。
真知子はいきなり東洋新聞社から「来て欲しい」と言われます。

ライバル大手の新聞社からの誘いに、真知子の気持ちは傾きます。
真知子は東洋新聞に行くことを考えながら、県民新聞の記者として仕事をして行きます。


実は真知子には「ネタ元」がいました。
この「ネタ元」が大事です。

ネタ元は、秘密のネタをくれる人物ですが、このネタ元と真知子の関係が大事です。


このネタ元と真知子は偶然出会いました。
この偶然が真知子に幸運を呼び込みました。

しかし真知子はこの幸運に気が付きませんでした。
そして真知子は自ら、この貴重なネタ元を失う行為をしてしまいました。

記者にとっては非常に大事なネタ元を自らの行動で失ってしまったのです。
さらに東洋新聞へ行くかどうか、という話もあります。

これもどうなったのか、最後にはもちろん分かります。


この話は、元新聞記者の横山さんの経験がずいぶんと生かされています。
新聞社の読者の奪い合い、また記者の引き抜き、取材、警察との関係、ネタ元など、新聞記者経験者だから
書ける内容となっています。


まさに横山ワールドです。




密室の人


裁判官の話です。
ある日、D地裁第四号法廷で、裁判長の安斉利正は居眠りをしてしまいました。
安斉の居眠りが話のテーマです。

安斉はあろうことか、裁判中に寝てしまいました。
しかも妻の名前「美和」を言って寝ていました。

安斉はなぜ裁判中寝てしまったのか、また安斉はどうなるのか、という話です。


安斉には妻、美和がいますが、美和とは再婚でした。
安斉は美和と再婚する5年前に、妻、康江を肺塞栓(そくせん)症で亡くしていました。
こういう私生活のことも裁判官は気にしなければなりません。


安斉の居眠りは新聞社にとっても格好のネタです。
横山さんらしく、この話でも新聞記者が出てきます。

安斉は新聞にこのことが載るかどうかもちろん気になります。
新聞記者とのやり取りも細かく書かれています。


話で大事になるのは、実は安斉の妻、美和です。
美和とは再婚で、美和と安斉は年が離れています。

実は美和には過去がありました。
その過去が、安斉の居眠りに繋がって来ます。


また、「密室」というタイトルですが、これは裁判所という意味と、もう一つの意味があります。
もう一つの意味の方が大事です。

どんな意味で、なぜ安斉が居眠りをしたのか、読んで確かめて下さい。







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